失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



どれくらい経ったかわからないが

彼は一人でカフェから帰ってきた

僕はまだボーッとしていたが

意識は少し回復してきていた



「いつもながら…愛されてるな…君

は」

彼は僕のベッドのそばの

パイプ椅子に腰掛けた

彼の優雅で無駄のない動きが美しく

僕の目に懐かしかった

「…ありがとう」

僕は心から彼に告げた

「ほんとに…ありがとう…」

彼は少し疲れたような顔で答えた

「礼を言われても困る…作戦だから

な…私達は君のために互いに協力す

ることを約束したよ…良いご両親だ

君がどう育ってきたかがわかる」

彼はため息をついた


「君の兄さんを…探す」


そう言うと彼は黙った

さっきそれを初めて聞いた時の

驚きがよみがえった

「ほんと…なんだ…ね」

「信用を得るための口からでまかせ

かと思ったか?」

僕の考えはお見通しだった

「驚いたよ…そんなこと僕には言わ

なかったし…正直…疑ったでもそれ

を言ってくれたことが…嬉しかった

とても…嬉しかったよ…でも…」

「恋敵なのに…探すのかって?」

彼が自嘲気味に言ったそのことを

考えていた

僕は黙った

そんなこと言えない

「…引っ掛かるからだよ」

「…え?」

彼は考えている目をしていた

「手掛かりがなさ過ぎるのが反って

"不自然"だということだ」

彼はあきれたようにつけ足した

「フェアにやらないと今度は足首ど

ころじゃ済まなくなる」

彼は手で自分の首をはねる

仕草をした

「いいか…私は本気なんだ…わかる

か?」

僕はまた泣きそうになった

「しかし…君のお母さんはなぜか私

の顔に似てるな…」

その事をいつか話す日が来るのか?

僕にはわからなかった





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