失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
「それから?」
「…この…写真の男が客で…何度か
続けて来ていて…いきなり…大金で
男に買われました…人身売買…です
それから…マンションに監禁されて
今度は覚醒剤漬けに…」
「そのマンションでは君はなにをさ
れていたのかな?」
もうやめたい
つらい
ここから逃げたい
つらい感情が甦ってくる
思わず口を手で覆う
叫んでしまいそうになる
我慢していると
涙がにじんできた
「疲れたのかな?」
担当者が僕の異変に気づく
「ごめん…なさい…限界…です…」
囁くような声しか出ない
下を向いて耐えるしかないような
「そうか…では今日はこの辺にしよ
うか…また近いうちに来るから…よ
ろしく頼むよ…君の証言は大事だか
らね…今日はありがとう…よく話し
てくれた」
最後にありがとうと言われて
少しだけ報われた気がした
彼らが帰ったあと
僕は声を殺して布団のなかで泣いた
取り調べの中で訊かれ
話したことすべてにおいて
自分が普通じゃないことが
おぞましく感じた