失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
彼は僕が激しく落胆したのを
感じとったらしかった
「君は…お兄さんととても仲が良か
ったみたいだね」
僕は無言でうなずいた
「辛いだろうな…だけど諦めちゃ
だめだ…絶対に」
その時なぜか
深い知り合いでもないその人の
その言葉で僕は
兄が消えてから初めて泣いた
あまり知らない人だったから
かもしれない
様々な失踪のケースを知った
その道のプロだということも
あるかも知れない
涙が堰を切ったようにあふれ出し
それは止められなかった
彼はそばに落ちていたティッシュ
の箱を黙って僕に渡してくれた
「…すみません」
「良い弟をもって君のお兄さんは
幸せだな」
そして彼はパソコン以外の
部屋の調査を始めた
僕は彼に断って
部屋を出た
ユニットバスの洗面台の前で
僕は声を殺して泣き続けた