失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
「…期待した僕が…バカだったんだ
でもその人は僕のことを前からずっ
と支えてくれてた…あなたから受け
た苦難の日々を乗り越えられたのは
その人のおかげ…でも今回は違った
僕の人生はその人にも理解出来なか
った…とてもまっとうな解答をくれ
たよ…恨むのは僕の筋違い…だけど
誰にも受けとめられない孤独に耐え
られるのも限度があって…僕はもと
もと我慢は苦手なんだ…兄貴みたい
に黙って耐えるのは僕には到底無理
…僕が初めてアル中の幻覚を見た
ときその人が出てきた…僕はその人
の幻覚に空の酒ビンを投げつけた」
彼は意外だという顔をした
「君にも恨むなんていう気持ちがあ
るのか…覚えておこう…だがそんな
に君から信頼された人物がいたとは
ね…そいつも隅に置けないな…君と
はどんな関係だったんだ?」
彼の目付きが鋭くなる
彼の疑念がわかるみたいな質問
僕は先行して答えた
「恋愛感情なんか…ないよ」
彼は一瞬固まった…気がした
「そうか…忘れられぬ愛しい恩人…
とかではないんだな…もうこれ以上
闘う相手は要らないぞ…今でもすで
にインフレ気味だというのに…心臓
に悪い」
僕はまた顔が急に熱くなった
こんなにサディスティックで
しかもズル賢いのに
こういうところだけ
あからさまに素直…
悪魔め…
「君は悪魔に祈りを強要するほどの
信仰深い人間だったのに…その人か
ら裏切られただけで神を思い出すこ
とすらしなくなったとはな…そうい
えばあの時ホテルでも言ってたな…
君の兄さんの失踪が神のご意志だと
言われたとかなんとか…新興宗教に
でもそいつは入ってるのか?…それ
とも君がなんたら会の会員とか?」
「…神父だよ…カトリック教会の」
彼は目を見開いた
「君んちはカトリックなのか!」
僕はすぐさま否定した
「違うよ…部活のOBの親父さんだ
よ…クリスマスのライブを教会でや
るんだ…うちの高校の軽音部は」