失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】




真夜中

兄のベッドでフッと目が覚める



もし

もし兄が

もう

生きて

いなかった…ら…





一番あって欲しくない

でも考えずにはいられない

その最悪の事態が

発作のように頭をよぎる



考えちゃダメだ…!

なにも根拠なんかない

だけど

そうでない保証は一切ない


思考が止まってくれない

地獄の責め苦のように

僕の心を突き刺す刃

何度も

何度も

頭の中を巡り…終わらない

追い払うことが

出来ない



次第に恐怖で歯の根が

噛み合わなくなる

身体がガタガタ震え出す

そして怖さが慟哭に変わっていく

いかないで

いかないで

お願いだから帰って

帰って来て…よ…

かえって…きて





だんだん確信がなくなってくる



兄は

本当に

自分を許していたの?



僕の危機が一時だけ兄の罪悪感を

麻痺させていただけに

過ぎなかったんじゃないの?



だからしばらく続いた平穏な時や

僕の進路が決まったことで

兄は僕の危機が去ったと思った…

としたら?


この部屋で兄が

あの時決めたことを

実行できるくらい

もう僕が独りでもやっていけるって

もしかして…思ったの…?



「うあああぁぁぁ」



悲鳴のような声が

喉からほとばしった

口を押さえた両手は震えたまま


(早く…早く起こして…!)

(夢なんだろ?夢なんだよね?)

(いやだ)

(いやだ)

(兄貴…なんで?なんで?)

(なんでだよ…)




僕は

本当に

愛されてたの?



僕は

捨てられた…のかな

そして兄は

新しい恋人と一緒に

いま…新しい…人生…を…





だが

そのほうが

100倍も1000倍もマシだ



兄がもう

この世にはいないかも知れない

という

凍りつくような

気が狂うような恐怖と

比べたら








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