失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



そのあと

どれくらいたったんだろうか

僕は処置室のベッドに寝ていた

僕は薄目を開けた

(ああ…意識が戻ったようです)

ナースの声がした

(…を呼んで来て下さい)

担当医の声


少しすると誰かが僕の顔を

覗き込んだ



彼だった



「目が覚めたか…?」

僕はうっすらうなずいた

「自分でやったのか?」

彼は不思議なことを尋ねた

何をしたのかな

僕は質問の意味がよくわからなくて

黙っていた

「まだ話せる状態じゃないか」

担当医がとなりで言っている

「話せるかな?」

担当医は僕に尋ねた

「…あ…」

"はい"と言ったつもりが

言葉が思うように出なかった

のどがカラカラだった

何がどうしたのかよくわからない

久しぶりに彼の顔が見れたことが

嬉しかった


なんか僕…やったのかな…

まだ夢を見ているようで

再び僕の意識はだんだんと

眠りに吸い込まれていった





それは

自傷だった

ただ僕には

それをした記憶がなかった




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