失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
処置室から個室に戻されたらしい
僕の意識はあまりはっきりせず
寝てるか寝ていないか
わからない時間が過ぎていった
何度かうつらうつらし
何度か意識が戻ったある時
僕はベッドの横でノートパソコンを
開いて彼が仕事しているのを知った
彼は側にいてくれていた
彼は仕事に集中しているように
僕には見えたが
僕が彼を見ていることを
彼はすぐに気づいた
「起きたのか?」
「…ボーッとしてる…」
彼は表情を変えずにまたPCに
向かってキーを叩き始めた
「あれだけ出血したんだ…少し回復
に時間がかかる…」
「出血…したの…?」
彼はふと僕の顔を見た
「…覚えてないのか?」
「……」
しばらく考えてから僕はうなずいた
「本当に覚えてないのか?」
「僕…なにした…のか…な」
微かにある記憶は
悪夢を見て目が覚めかけたこと
そのあと壁にもたれてたこと
どこかが痛かったこと
それくらいだ
僕は彼にそう答えた
「…わかった…本当に覚えていない
ようだな」
そして彼はPCを畳み
僕の方を向いた