失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
バイトから帰ると
僕は兄の部屋を
手掛かりを捜して
調べ回った
何でもいい
なにか少しでも不審に感じるモノ
違和感の匂い
それを
ゴミ箱の中
ベランダ
クローゼットの中
積み上げられた本と書類の山を
部屋の隅から順に
ひとつづつ調べていった
真夜中までやって
取り憑かれたように
目を皿のように見開いて
狂ったように
だけどもう
眠ることが出来ない
頭の中を回る恐怖に支配されてる
部屋を調べていられるうちはマシ
意識を何かに取られていれば
一時の忘却が訪れる
でも
手を休めたら…
地獄の中にいることを
思い知らされるだけ
眠れない
眠れないだけじゃない
苦しくて壊れそうなんだ
一瞬
死が頭の中をかすめる
その選択は
できない
できっこない
気が狂えれば
本当に狂ってしまえればいいのに
狂ったら苦しくなくなる
いや…わからないよ
狂った方がいまより苦しくない
なんて
誰にも
兄の匂いのするシャツ
その中で発狂しそうになる