失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
その日から彼は
毎日1回は僕の顔を見に
病室に来てくれるようになった
機嫌の良い日も悪い日もあっても
話はいろいろ出来た
たぶんあの夜の自傷は
フラッシュバックの影響もある
だろうと彼は推測していた
「覚醒剤はそれがあるからな…一筋
縄ではいかないんだ…それで更生し
たはずの人がまたヤク中に戻る…周
りの支援と理解…それにかかってい
ると言っても過言ではない…自分独
りでの更生は至難の技だ」
彼は少し厳しい様子で付け加えた
「君の心の中の問題はまだ少しも解
決していない…それは少しの心の揺
れが事件を引き起こすことにつなが
る…監視態勢を強化する必要がある
証言の聞き取りが終わるまでは特に
要注意だ」
あなたが来てくれてたら
きっと大丈夫…
僕はそう思った
でも彼はいまとても忙しいんじゃ
ないかな…
僕は彼のことも少し心配になった
「いま…忙しいんでしょ?僕がこん
なに時間とってて…いいのかな…」
彼が少し疲れて見えた
「ここに来るのは…息抜きみたいな
ものだ…それとも私が来ない方がい
いか?」
僕はあわてて否定した
「そんな…違うよ…来て欲しいけど
…忙しそうだからあなたが疲れてる
みたいで」
彼は首を横に振った
「わかってないな…ここでさぼって
いる…最近機嫌が悪いから付き合い
きれなくなったのかと思った」
彼はちょっとホッとしたような
顔をした