失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
それから毎日物理療法士とリハビリ
を繰り返した
ホットパックで温めて低周波通電
そのあと特殊なストレッチをする
物理療法士を《PT》というらしい
PTの先生はイカついおじさんで
元はレスリングの選手だった
日本代表にも選ばれたその世界では
割りと知られた選手だったが
故障(膝らしい)でこの業界に入り
以来選手時代と故障の経験を生かし
(自称)優秀なPTになった…らしい
最初は僕がこの病院に来た経緯を
PTの先生にも全部知られているか
と思うと目も合わせられないほど
恥ずかしかったが
まったくそういう素振りすらなく
普通に接してくれたので
僕はだんだんリハビリも苦痛では
なくなってきた
先生が上手いから…というのもある
特に麻痺した神経の超音波治療で
少しずつ改善してきたのが
本当に嬉しかった
うっすらとした感覚が
指先の皮膚の表面に出てきたとき
これでギターの弦が押さえられる
そう思っている自分に気づいた
…本当は…弾きたいん…だ
まだ弾けない…だけど…