失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



弾けるかも知れない…



それは僕にとって自分に打ち込んだ

カウンターパンチみたいだった

ギターが弾けないのは

…思い出したくなかったからだ

ヤツの…親友のこと

捨て身の忠告を無にした後悔

僕を気に入ってくれてた

バイト先の店長には

あのことを知られていて

そして途中から行けなくなった学校

ギターはもう…弾けそうにないほど

手じゃなくて…気持ちが



自分の中でギター…それ以上に

音楽のことを忘れていた



音楽のことを考えただけで

自分が壊した信頼関係を

全部思い出してしまうから



弾く気にはなれないどころか

音楽ごと忘れ去ってた

いや…忘れたかったから

思い出さなかったんだ

僕が音楽で人生をやり過ごして

いこうと思ってたこと

それそのものを




左手が麻痺したとき無意識に感じた

もうギターは弾けないかもと絶望し

それでよい…と

だがその麻痺がとけはじめたら

僕は無防備に蓋を開けていた

ギターがまた弾ける

という心の底にある喜びを



そんなに僕は…?




自分の気持ちがわからなくなった

もう苦しいのはイヤだ

考えたくない

僕はまた蓋を閉じた





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