失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
「おまえに…どう思われてるかって
僕は…見損なわれたと思って…」
それを聞いてヤツは怒った
「見損なうだとぉぉ!?」
「だって…おまえが…あんな一生懸
命言ってくれたのに…僕は…」
「悪りぃが…クソっ…オレが力不足
だったんだよ!…引き留められなか
ったんだよ…縄かけてお前引きずっ
てでも帰れば良かったんだよ…オレ
が甘かったんだっつーの」
「違う…おまえのせいじゃない!」
そんな罪悪感…感じるなよ
僕の自業自得なのに
ヤツは僕の胸ぐらをつかんでいる
固まった拳を急に弛めた
その手がダランと下がり
ヤツはベッドの横に立ちつくした
「死ぬなよ…もう…誰も死ぬなよ」
一瞬ヤツの胸の中の空白が見えた
「そう…だった…ごめん…」
「もっと…オレに気をつかえ…まだ
オレ完治してねぇんだぞ…まだ…」
「ごめ…ん」
「お前に死なれたらオレは死神だ」
「駄天使で…死神…」
思いつきでつい口走ってしまった
ヤツはそれを聞いてプッと噴いた
「微妙な神々しさだな…深刻な話を
どうしてくれる…噴くわ」
「ごめん…つい…」
「お前謝り過ぎだ…バカ」
ヤツは椅子に座り直した
「仕方ないだろ…こんなの…人とし
て終わってる…」
「人間だから…だろ」
ヤツは椅子の背もたれに顎を乗せて
しみじみと呟いた