失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
「リハビリに持って行ってくれって
お前のお母さんから頼まれた…それ
と…これ」
ヤツはジャケットのポケットから
デジタルプレーヤーを出した
「ほら…お前の」
あ…
「これも一緒に頼まれた」
「母さんが?」
「うん」
アパートから回収してくれたらしい
「ちょっと弾いてみろよ」
僕が返事もしないうちに
ヤツはケースからギターを出した
僕の青いフェンダー…
久しぶりに目にする
「ほれ…お前いつからさわってない
んだ?」
ヤツが僕に抱かせてくれる
なんだか熱いものが込み上げてくる
「どうだ?…久しぶりで重いかもな
弾けるか?」
ヤツに言われるまま
左手の指をフレットに置く
Cをコード弾きしてみた
「あ痛っ…」
思ったより指が曲がらない
Fのコードは…力が入らない
「ああ…前途多難…」
でも思ったよりも指先は動いていた