失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
車の中で彼はあまり話さなかった
気がかりでもあるのかと
少し思った
「あの…さ…」
「なんだ」
「僕の実家に行ったことある?」
「ああ…ずっと前から知ってる」
…あの頃のことだろうな
「それに今回の事件で君の家に行っ
たしな…久しぶりにあのアパートに
も行った…君の方が兄さんより綺麗
好きなんだな…アル中の割には片付
いていた」
「そうだったんだ…行ったんだ」
彼はまた黙った
何か考えているようにも見えた
「なんか…考えてるの?」
彼は反応しなかった
そのかわり少し走った先の
大きな駐車場に車を入れた
「降りろ…コーヒーでも飲もう」
その先に大きなカフェがあった
「ここのは割りと美味い」
彼は少し片足を引きずりながら
先を歩いて行った
いつもより痛そうだ…
それを見るたびに僕の胸が疼いた