失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



「…落ち着いてきた…みたいです」

いつものようにタメ口で返事しそう

になりあわててフォローした

あぶない

「一晩泊まりたいかな?」

そんな…泊まるなんて

記憶がない時に何を言い出すか

怖くて眠れないじゃないか

こんな秘密を知らないうちに暴露…

破滅だ

「やめて…おきます…フラッシュバ

ックが怖くて眠れなくなりそうで」

「そうか…まだ早かったか…」


小芝居じみたやり取りをして

ニセ帰宅計画は目的を遂げて瓦解


いまの僕にとって実家は

安住の地では決してない

だが誰も悪くない




「…この子の兄の捜査は…何か進展

ありますか?」

母が核心に触れてきた

「残念ですが今のところあまり進展

は…」

彼は上司向けの解答をした

「そうですか…」

母の消え入りそうな声が痛い

両親には話さない作戦なのだろうか

秘密は知っている人間が少ない方が

いいからかも知れない

常に慎重さが問われてるみたいだ

母さんにはかわいそうだけど




少しして父が帰ってきて

久しぶりに僕は顔を合わせた

腕を切ったときには

僕の意識がないときに

父は病院に来たらしかった





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