失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
「…ああ…もう時効ってことで勘弁
して下さい」
父が苦笑して彼に言うと
彼はおかしそうに笑った
「ええ…もちろん時効です…逆にお
父さんがご経験されていて良かった
息子さんにまた話してあげて下さい
彼の気が楽になるでしょうから…
なかなか普通では共感されにくい体
験だ…息子さんの方が難易度の高い
チャレンジですけどね」
「そりゃシンナーなんて生易しいも
んじゃないが…そういうことも役に
立つとはなぁ…悪いこともやってみ
るもんです…あなたも経験があるん
ですか?」
何の気なしに父が彼に尋ねた
少し際どい質問じゃないか?
「薬科を出てますから…それ以上は
ご想像にお任せ致します」
「ああ…すみません…あなたはあま
り…警察っぽくないんでね…つい」
彼は苦笑していた
この前まで悪党だったからね
父親は無意識にわかってるのかも…
僕を助けてくれたとはいえ
僕たち兄弟にあんなことをしたのに
両親と普通に顔を合わせ
普通に話をしている彼の神経は
いまだに普通ではない…と思った
それなのに
人の心理を読み尽くしている
僕が両親にどんな負い目を感じて
苦しんでいるかとか
父や母が何を感じてるのか
きっとわかって行動してる
そこが彼の最も悪魔的なところだ
それを悪事に利用すれば…だけど
彼を常識で理解するのは難しいなと
つくづく感じた