失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】




その経費も父は一切糸目をつけず

それは血のつながらない息子

に対する父の思いを

僕と母に確認させるための

父のひとつの表現のように

僕には見えることもあった

そんなことがなくても母も僕も

父が兄を本当に大事だということを

疑う気持ちもありはしなかった

だろうけど…

でも兄に対する父の罪悪感は

失踪の理由が不明であればあるほど

妄想のように父の心を

蝕んでいくのが僕にはわかった



兄を救えなければ

家族もいずれ壊れてしまう

事態は残酷に僕たち家族の弱点を

正確に追い撃ちした





早くしなければ

一刻も待てないくらい

この苦境を早く打破しなければ





だから彼に僕はかなり色々と

捜索のコツを教えてもらったり

話を聞いてもらったりしていた

僕にとって彼に会う時だけが

唯一の希望の時間であり

彼はプロとして

僕の良き理解者でもあった





その彼が

ある日いきなり

父に解雇された

僕たちに相談もなく…









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