失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
両親に見送られて
僕と彼は実家をあとにした
父が僕と普通に話してくれたのが
本当にありがたかった
父が元ヤンキーで
足を洗う前は結構ワルで
そのことがこんなに有り難く感じた
ことはない
父がワルで暴れてた頃の話は
本人からはあまり聞いたことがない
以前父の仲間が前にうちに来て
呑んで酔っぱらった勢いで
「昔はつるんで悪いこともやらかし
たけどな!」
みたいなことを小さい時に聞いたが
母は小さい僕には"言えない"
ようなことを知ってるみたいだった
僕の事件は普通の家庭なら
両親が精神を病むぐらいの事件だ
それを二人があんな風に
持ちこたえていてくれることが
僕には奇跡の一つに思えた
「気分は落ち着いたか?」
彼はハンドルを片手で握り
前を向いたまま僕に聞いた
「うん…なんとかね」
「そうか…まあまあだな」
何がまあまあなのかわからないが
気分的に車の移動は今のところ
大丈夫みたいだった