失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
「あなたがいるから…とりあえず安
心なんだけどね」
僕の言葉に彼は前を向いたまま
無表情に答えた
「私なしには居られなくしてやる」
冗談か本気かわからないいつもの
彼の言い方
「近いものは…あるよ…もう…」
「ああそうだな…だが…」
彼は前を向いたまま表情を変えずに
独り言みたいに呟いた
「全部だ…君を全部もらう」
それを聞くと
一瞬で身体が凍るようだ
いつも
いまは…言わないで
そんなこと
苦しい
お願いだから
「君の気持ちなど知らん」
彼は僕の心を見透かしたように
小さく言い放った
「だが早く君の兄さんを見つけよう
…話が始まらない…目の前にご馳走
があるのに食べられないなんて私に
は到底似合わないからな」
彼はグン…と車を加速した
乗らないはずの高速にいつの間にか
乗っていた