失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
「どこに…行くの?」
確実に病院に戻る道ではない
「君を犯せる場所に」
彼はよどみなく答えた
「えぇっ…今から?」
「ああ…もちろんだ…不服か?」
「し…仕事は?」
「君を犯して病院に送ってそれから
職場に戻る」
「そっ…そんなんでいいの!?」
また仕事中にするなんて
僕が間違ってるのか?
「人生は短い…我々がいつ別れるか
などわかったもんじゃないだろう?
…特にこれから先は…」
なにかを吹っ切るような再加速
身体にGがかかる
「メ…メーター!」
「この区間はセーフだ…先を急いで
いるからな」
車線が突如変更され
出口のランプ
あっけないほど乗ってすぐに
車は高速を降りていた
出口2km
玉久司島
標識の字が見えた瞬間
僕の胸が一瞬ズキッと疼いた
二つの思い出が脳裏を駆け巡り
夕日と蝉時雨が
僕の幻の中で交錯した