失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
「すまなかった…ちゃんと凌辱すれ
ば良かった」
次の日彼は夕方僕を見に来て
クールに謝罪した
「君がナースコールを押したと報告
をもらった…ちゃんと抜いてやれば
良かったと後悔したよ」
やれやれ…といった感じで
彼はため息をついた
「あの…抜くとか抜かないとかじゃ
なくて」
僕が静かに抵抗すると
すぐさま否定が飛んできた
「いや…抜く抜かないの問題だ…神
経症とリビドーの関係はフロイトの
不完全な学説の中で私が唯一賛同す
るところだ」
専門的過ぎて4分の3は日本語が
理解出来なかったが
「叫ばせよう…今度はたっぷりと」
不穏な発言に内心かなりビビる
「そんな…」
「…それ以上に君は兄さんと同じで
罪の意識が強すぎるんだよ…パニッ
クの深層意識には罪悪感が潜んでい
る…君は昨日激しく自分の罪深さを
責めていた…違うか?」
いつもながら正確な読みだ
「…ああ…した…かも」
「君は二股掛けてるからな」
胃を素手で捕まれたようなショック
あなたがそれ言うの?
こんな不安定なのに
まだ追い詰めたいの?
瞬間に怒りがこみ上げてくる
「…言わないでよ…死にたくなる」
「そうか…なぜ二股が悪い?」
「当たり前だろ!説明の余地がない
じゃないか!…もうやめてよ!」
彼は再びため息をついた