失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
目的と選択
それから僕の状態は安定し始めた
気候も晩春を少し過ぎて青葉の光る
梅雨入りの前頃
体力が回復してきて
外郭の薬物依存のグループ療法に
病院から参加するようになった
これも彼のプログラムの一つ
規模は小さいし有名ではないが
良い心理療法家がいると彼は言った
…女性のセラピストだった
男じゃ心配なんだね…
いまだに手のリハビリの時間は
僕に逢いに来ないようにしてるし
(見張られるよりいいけど)
そしてまた
一時帰宅の話が持ち上がった
警察の僕への聴取も終わり
そろそろ退院の時期となっていた
フラッシュバックの不安はある
いつ起きるか分からないし
僕がどうなるか両親に見られるのは
相変わらず怖い
ではあのアパートで独り暮らしが
出来るのかというと
それは彼も家族も僕自身も
やめた方が良いと感じていた
彼は例の女性セラピストと相談して
治療施設に入寮してはどうかと
僕に提案してくれた
私と同居するのも夢のある話だ…が
まあ…今は無理だな
私の出張や徹夜の日が怖いからな
…いや…あの…無理でしょ
そんなの誰にも言い訳出来ないって
僕も…あなたと…
一緒にいたいけど