失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



しかし興信所の調べでは

職場に関する手掛かりはなかった

失踪の始まりは出張

当然興信所も兄の職場の調査を

何度も行っていた

大学院の頃のことも調査したはずだ



僕の感覚が変なだけ?

あの日兄貴はイライラしてただけ?

失踪と関連着けて期待してるだけ?



自分だけでは結論は見えない

彼に相談してみるしかない

だが兄の件ではこちらから

すぐに電話するわけにもいかない

それは彼に固く止められている

会話を盗聴されるかも知れないから

という彼の慎重な判断だ

寮に入る日に彼がそこに来る

その時に話すしかない

無駄かも知れないけど




僕は記憶を封殺するクセが

あるかも知れないと思った

なかったことにして心を守る

そういうところは母に似てるかも

フラッシュバックの記憶喪失は

彼が封印を解いてくれたおかげで

奇跡的に早く回復したけど

まだなにか忘れていることが

もしかしてあるのかな…?

クスリの後遺症で記憶が錯乱したり

失われたりすることもあると

彼は言っていたが

僕は大事なことを忘れているような

不確かなイヤな感覚に襲われていた





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