失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



母が自殺未遂のあとでウツ病になり

精神病院に入院したみたいに

今回もそうなるかと心配だったが

あの頃と違い母には父がいた

兄だけじゃなく僕がいなくなった時

父と母は絶望的とも言える局面を

迎えたんだろうと想像するけど

それでも二人で持ちこたえたんだと

今の両親を見て凄いなと思った

あのとき何をどう耐えたのかは

僕からはまだ聞けないけど




車の中で父とポツポツ話ながら

目的地に向かって行った

同じ自治体だがかなり遠いので

高速に乗っても1時間以上かかる

うちの実家は都市部の平均的な

郊外の古いベッドタウンだが

寮は開発されたニュータウン的な

大学や基地や市民霊園の集まる

そんな地区の外れに位置していた

しかしニュータウンと言っても

時が経てば古くなり世代交代も進み

市民の減少と共に公共施設の利用が

全体的に減り過疎化した建物が増え

そんな空き施設を利用して

僕が入る寮が数年前に出来た…

という経緯



これはカウンセラーの先生から

ざっと聞いた話なんだけど…とか

父親に軽く説明した

父は話を聞きながら少し黙り

あまり表情も変えず僕に言った

「しかしな…まあ…一つだけ母さん

に内緒でお前に聞いときたいんだが

な…」



心臓が飛び上がりそうに

バクっと音を立てた






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