失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
「トンネルの出口で顔を見たときさ
最初僕…兄貴と間違えたんだ…けど
違った…似てるんだよ…見たことあ
る?」
「ああ…一度だけな」
そして父はフッと笑った
「兄ちゃんは生きてるな」
そうか
確かにもし兄貴がもうこの世に
いなかったら…
「そうだよね…確かにそうだよね」
兄貴はトンネルの出口には
来なかったんだ
科学的根拠ゼロだけど
親父の確信にはなぜか
確固としたものを感じた
彼が兄が生きてると推測したことが
さらに真実味を増した
「あいつ…最後には改心したんだっ
たよな…お前に恩返しか?…そんな
ら兄ちゃんの居場所くらいちゃんと
教えろっての!」
父は顔をしかめてもう一本
タバコに火をつけた
そうだよな
むしろ兄貴を助けるべきだよ
あ…
もしかして
これが…ヒントなのか…?
「あのさ…興信所には…兄貴の親父
さんの線はどれくらい調べてもらっ
たの?」
僕は思わず父に尋ねていた