失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】




玄関に置いてあった段ボールの中の

ダース買いしてある焼酎を

怒りにまかせて一瓶抜き出した

カバンに無理矢理押し込んでると

母が追いかけてきた

「ちょっと待って!」

振り返る気はない

「アパートに帰るの?」

「そこしか…行くとこないよ」

「ちゃんとご飯食べてるの?」

僕は母の顔を見た

目の下にクマができている

寝てないんだな

僕と同じだ

「生きてるから…それで許してよ」

ごめん…母さん

とてもじゃないけど

いまは優しい言葉なんか

出てこないから




母を振り切って歩き出した

悔しくて悔しくて泣けてくる




アパートに戻ると

着替えもせずに焼酎をそのまま

ラッパ飲みした

喉を焼くような液体が

内臓を犯していく

3、4口飲んでむせた

瓶を掴んだままゲホゲホ咳き込んで

床に座り込む



明日から

どうしよう

新しい興信所の調査員なんか

会いたくもない

こんな気持ちで

どうしろっていうんだ僕に

勝手に…勝手に替えやがって

くそっ!くそっ!くそっ!!

床を拳で殴る

痛くて腹が立つ




アパートの前の自販機で

コーラを3本買う

のろのろとスウェットに着替え

コップにものすごい濃さの

焼酎のコーラ割りを作って飲む

そのコーラ割りで眠剤と鬱の薬を

流し込む

やっちゃいけないらしいけど

もういいや

どうせ効かない















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