失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
立っていることがしんどくなり
僕は床に座り込んだ
彼はまだ呆然と立っていた
僕は膝を立てて壁にもたれて
独り言みたいに話し続けていた
「あいつが自分の心の隙間を埋める
ためにしでかしたことが僕たち家族
にとっては呪いだったんだよ…僕に
とっては心の隙間を埋めるために誰
かを犠牲にするのは絶対にやっちゃ
ならないことだった…だけどあいつ
のなくしたものの空虚が玉突き衝突
事故みたいに連鎖してまた違う不幸
を生んで僕のところまで来て…僕に
囁いた…お前も大事なものをなくし
たな…って…そんなところにあの売
人が僕の隙間を埋めた…クスリが隙
間を埋めた…気がついたら結局僕も
とりこまれてた…」
僕は何を話してるんだろう?
とりとめなく止まらない
「兄貴の父親は母の従兄弟を失って
兄貴とあなたでその空虚を埋めた
あなたは彼を亡くして隙間を兄貴で
埋めた…兄貴は僕を突き放して空虚
をあなたで埋めた…今度は僕の番だ
…僕はそんなことしたくない…そん
なことするくらいならクスリに溺れ
ている方がマシだよ…だって…だっ
て僕は…あなたを犠牲なんかにした
くないんだ…誰かを巻き込んで不幸
の連鎖をまた繰り返すくらいなら…
僕は死んだ方がマシだ!」
最後の方は叫ぶみたいになっていた