失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



僕はしばらく言葉を考えていた

その感覚を表す言葉

誰かに言ったことはあっただろうか

今までなかったかも知れない


「…もうほんの1ミリも…愛する人

が傷つくのを…見たくないんだ…僕

は…人生を狂わされて傷つき過ぎた

兄貴や母を…ずっと見てきた…悲し

くて…腹立たしくて…やりきれなく

て…僕は人を憎まないなんてウソだ

僕は…あの人を…兄貴の父親を…憎

んでた…あの日…彼に逢うまで…」


自分の無意識を初めて見た気がした

僕はあの日まで彼を憎んでいた


「逢ったら…現実に打ちのめされて

彼を憎むことが…出来なくなっちゃ

った…だけど今日…わかった…憎し

みの下には…深い嫉妬がまだ生きて

いるんだ…兄貴も…あなたも…きっ

と母さんも…まだ彼が忘れられない

んだ…だから…」

「だから…?」


だから…?

だから…なんなんだ

僕はその先の言葉を不意に切った

いやだ

見たくない

僕は…これを…見せたくない


「だから…?」

彼の口調が静かに…だが

有無を言わせないような強さで

僕を問い詰めた





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