失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
いやだ
「言いたくない」
「言うんだ」
口元がひきつって言葉が出ない
「いや…だ…」
「言うんだ!」
「言いたくない…!」
「なぜだ…なぜ言いたくない?」
彼が優しく僕に問いかける
「言わないと君は…またいつか自傷
する…無意識の方が力が強い…だか
ら吐き出すんだ」
だから…僕は…
ああ…ダメ…だ…
こんな僕を誰が愛する?
「言えない…あなたに知られたくな
い」
僕は恐怖に戦いて首を横に振った
「知られたくないほどの闇か?…私
より深い闇か?」
「違う…闇なんかじゃないよ…闇で
すらないよ…僕は…汚い…薄汚いん
だ…だから…もう許して…」
「だめだ」
「お願いだから…もうやめて…!」
横を向き彼から逃れようとする
彼はバンッと両手を壁についた
僕は逃げられなくなった
彼はまた優しく言った
「逃げるな…私も逃げない…誰から
も愛されない惨めな人間だと受け入
れる…だから君もその薄汚い自分を
認めろ…その方が人間らしい…君は
普通の男の子だ…それを見せてくれ
人は不完全なんだ…君の不完全さを
私は見たいんだ」