失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
言ってしまった
自分にすら封印していた卑怯な自分
兄貴のためじゃない
自分の独占欲のために
僕は善人みたいに振る舞ってた
「あなたが前に言ったよね…偽善者
だって…今なら僕はそうだって思え
る…でもそれが本当の僕だ」
「うん…よし…ようやく言えたな」
彼は僕の頭をなでた
「がっかりした…でしょ…」
「いや…安心した」
「え…?」
「これで君が自傷して命を落とすこ
とはなくなっただろう…君が人から
愛されるためにもう無駄な努力をす
る必要もない…それに君はそのまま
でも同じことをするだろう…そして
人はそれが本当かどうかなんてすぐ
わかるもんだ…君を偽善者と言った
のは私が認めたくなかったからだ
君のようなバカな子がこの世でなぶ
られてまだ真っ白なままでいるなん
て…認めたくないに決まっている」
彼は少し遠い目をした
「大嫌いだった…」
「また嫌いになったよね」
「腹立たしいほど好きだ…ある意味
憎たらしい」
「いて…」
彼は僕の鼻をキュッとつまんだ