失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



「嫉妬深い偽善者なのに?」

僕は驚いて聞き返した

「そんなくらいのことでは君の評価

など変わらん…だいたいそれくらい

の汚濁などどんな聖人君子だろうと

108個は持っているんだ」

「108個って…なんでそんなリアル

に細かいの?」

彼は呆れたように言った

「まったく今の若い子は基礎知識が

足りんな…108つは煩悩の数だ…覚

えておけ…常識だぞ」

彼は唐突に顔を近づけて

僕の唇を奪った

「んっ…!」

「可愛いな…年下には興味なんかな

かったのに…ほどよくバカでいて欲

しいと切に願う」

またキス

「あ…」

「感じたか?…おっと…ここじゃマ

ズいな…君をしばらく犯していない

からこのところ欲求不満なんだが」

「ここでは…絶対ダメだからね!」

ニヤッと不穏な笑みを浮かべて

彼は僕から身体を離した



真顔に戻ると彼は僕に言った

「とりあえず君の話を真に受けよう

私の元彼の関係を洗う…気になって

いることもあるしな」

「あるんだ…」

「ああ…まあな」

彼はチラッと腕時計を見た

「時間だ…戻るぞ…君のミーティン

グは夕方だったな…本当は連れ出し

て犯そうと思ってたのに…残念だ」



…やめてよ

僕だって…必死で我慢してるのに



「では…近いうちにまた来る…見送

るなよ」



彼はまた風のように去って行った





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