失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



気持ちが静かだ

彼は言った

薄汚い自分を認めろと



言葉にするまで自分でも気づかずに

ずっとフタをしていたんだ



僕が兄貴を好きだと気づいたころ

僕は…苦しかった

同性だから

兄弟だから

兄弟なのに父親が違うから

好きな人は父親に抱かれてるから…



そんな日常はないな

あり得ない

でもそれが僕たちの日常

僕が生まれたときから変わらない

それが人生の基礎

そんな基礎の上には

なんにも積むことが出来ない



愛…以外

そう…愛だけ



その愛すらなくなったら

僕は生きていけない

だから僕は兄貴を僕につなぎ止める

兄貴を全部受け入れて

決して傷つけないことで



いつしかそれは愛されるための

僕の基礎になっていた



それをやめたら僕は生きていけない

そう無意識に自分を縛った

だからその基礎をハズす行為は

生きていけない=生きてはいけない

だって生きていたって

仕方ないから





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