失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
母のその話を僕は
黙って聞いてるしか出来なかったが
心のわだかまりを吐き出すように
母は話を続けていた
「…なんか…あの話って…びっくり
して…同時にものすごくホッとして
それからね…なんかすごく頭に来て
なんかとても複雑でメチャクチャな
気分でね…涙は止まらないしね…」
母はフッと笑った
「いま思い出すと自分のことが可笑
しいわね…」
「可笑しく…ないよ」
僕は思わずフォローした
「…ありがと…優しいな」
僕はそんなことを言われて
恥ずかしくなって下を向いた
照れ隠しにコーヒーを飲んだ
「…でもね」
母は何かまた言いたげな顔になった
「あなたの事件は多分関係ない…あ
の人とはね…でも…」
「でも…?」
僕は言いにくそうな母を促した
「…でも…お兄ちゃんは…」
「なにか知ってるの?」
僕は思わず聞き返した