失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



「確かなことは何も知らないわ…た

だ…少し気になってることがあって

…でも…あの人のことに触れるのが

怖くて…お父さんにも言えなくて…

あなたもいなくなっちゃったし」

「ごめん…大事な時にそばに居られ

なくて…」

僕が謝ると母は首を横に振った

「あなたが辛い思いをしていたこと

分かるから…あの時はお父さんも荒

れてて…お父さんお兄ちゃんがいな

くなったことにすごく責任を感じて

たから…酔っぱらって泣いたことも

あったのよ…お兄ちゃんともっと話

してやらなきゃなんなかったのにっ

て…」

「親父が泣くなんて…」

僕は追い詰められた父親の気持ちを

思うと少し寒気がした

「お父さんはお兄ちゃんのことでし

か泣かないのよ…私が自殺未遂した

時も…あの子のために泣いてた」

だから母は父と結婚したんだろうな

そしてそれは正解だったと思う

「あの人の遺品をお姉さんと二人で

分けたって…お兄ちゃんから聞いた

の…お兄ちゃんがあの事を告白して

くれたとき…あなたが駅で倒れて入

院したときのことよ…お兄ちゃんに

あの話をして…お兄ちゃんも自分の

秘密を打ち明けてくれて…その時に

ね…お兄ちゃんがお葬式の話…少し

だけ話してくれたの…遺品をお姉さ

んと分けて…あの人の仕事関係の資

料ももらったみたい…お兄ちゃんは

それを見て…俺はジャーナリストと

してのあの人のこと何も知らなかっ

たんだなって…そう言ってた」





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