失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
母と二人でタクシーに乗り
寮まで帰った
思いもよらないところで
こんなに簡単に滑り落ちるように
もうなにもかも嫌になっていくのが
自分でも不思議だった
所長に挨拶を終えた母が部屋に来た
窓からの景色とギターを眺めながら
母は専門学校に戻らないかという
話を僕にした
休学扱いになってるから
事情も話してあるし
いつでも復学できるからね…と
半分上の空で聞きながらも
兄のことを考える暇が無くなる方が
良いのかもしれないと思った
カウンセラーとか担当の捜査官に
相談してみるよ…と母には言った
「めまい…大丈夫?」
母が元気のない僕に問いかける
「…うん」
心配させないように答えたが
母を本当に心配させたくないのなら
めまいがするなんて言わなきゃいい
だけど言ってしまったのは
苦しいのをもう我慢出来ないから
今夜は眠るのがこわい
医者にもらってある強めの睡眠薬を
飲んで寝るしかない