失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



取り返しのつかない気分がした

クスリをやる前は秘密は苦痛でも

秘密のままだった

だけど自分が自分の意識を

コントロール出来ない今は

自分の中に秘密があることは

いつ爆発するかわからない爆弾を

抱えて暮らしているように感じる

この先意識をまともな状態に

回復出来るのか

それとも一生この恐怖におびえ

苦しみ続けるのか

ハマった物の闇の深さが際立つ

所長がミーティングで言ってた

元に戻れない苛立ちや絶望が

再びクスリを入れてしまう

その理由のひとつになると



身体も心も人間関係も変わり

人はその孤独と苦痛に

耐えていけるのか?

僕はクスリ依存に戻る人の気持ちを

たったいま体験しかけていた




ふっ…と

いま兄が見つかったとして

僕と兄は前と同じような気持ちで

いられるのか…という疑問が

頭をよぎった

初めてそんなことを思った自分に

ゆっくりと後悔が広がったが

同時になにか自暴自棄にも似た

ざらついたイヤな感覚が

僕の心を支配していくのを感じた






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