失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



僕が途中から気持ちが落ちたことは

母にはバレバレなはずだった

だからその後兄のことには触れずに

すぐに話を変えてくれていた

母は母で僕がなにか知っていると

期待して思いきって話したのに

僕が知らなかったことで

かなりがっかりしているようだった



お互い予想の斜め上をいく展開に

失望を感じていることは明らかで

僕達は口数も少なく別れを迎えた



「あなたに話せてだいぶ楽になった

わよ…ありがとう…身体に気をつけ

てね…復学のこと考えておいて」

そう言うと母は一人で帰って行った

僕は寮の正門まで送った

母を乗せたタクシーが

角を曲がり見えなくなる



ひとりになると

無性に彼に逢いたくなった

少し後ろめたさがよぎったが

クスリや酒に戻るよりマシだと

自分で自分を弁護していた

しばらく逢ってない

話したいこともあるのにな

孤独が覆い被さってくるような

いたたまれなさの中にいた




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