失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



結局しばらくして耐えきれずに

彼にメールした

建前は『復学について』

本音は『逢いたい』



夕食のあと一人で部屋にいたら

淋しくて折れそうだった



『母が寮に来ていろいろ話しました。専門学校に復学しないかと言われたので、相談したいです。体調はあまり良くはありません。母との話で精神的に落ちています。では、返信下さい。』



ズルいメールだ



一時間くらいして返信が来た

メールの着信音がたまらなく

嬉しかった



『こんばんは。今は予定が立たないので、明日連絡します。風呂に入り、すぐ睡眠薬を服用して早めに休んでください。所長に体調不良を報告するのを忘れないように。ではお大事に。』



こんな風に他人行儀な文章で

誰に見られても怪しまれないように

僕達はたまにメールを交わす

大義名分がないと出来ないメールだ

だから大概は向こうから来る

体調や精神状態を質問してくる

担当だから当たり前だ

だがたまに…だ

それでも嬉しい

こんな上っ面な文章でも

何度も読み返してしまう

それに事務的に返信する

ミーティングで聞いたこと

寮で起きたこと

体調と気分的なこと…など



彼の言うとおりに風呂に入り

所長に体調不良を報告した

そして強めの眠剤を飲み

早々にベッドに入った







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