失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



いつもの午後のミーティングの後で

所長が彼から連絡をもらったと

僕の席まで言いに来てくれた



時折くずれ落ちそうになる

それを隠すのに疲れきる

気持ちがはやって焦燥感が辛い

時間が経つのが遅すぎて

気が狂いそうになっていた

久しぶりの逢瀬だから仕方ないが

こんな少しのことで

こんな強烈なストレスを感じるとは

まったくの予想外だった



4時30分頃彼からメール

『渋滞で少し遅れます。5時30分頃には着くと思います。』



あと30分だと思ったのに

さらに長い一時間

ああ…待つのはもううんざりなんだ

何ヵ月も待って

あの時も待った

そして今も



簡単にネガティブ・フローに入る



兄が帰るのを待って

プッシャーの男を待って

監禁が解かれるのを待って

自分の死ぬのを待って

彼の連絡を待って…

待って待って待って待って待って



足を投げ出して壁に寄りかかる

離脱してから初めて

本気でクスリが欲しい

そう思っていた

アルコールでもいい

待つのは…もう…耐えられない



ああ…彼に…返信を打とうか

なんとか気を紛れさせるように

必要ない返信を打ち始めた





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