失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
急いで出かける支度をして
所長の部屋に行った
所長は携帯で話していた
彼からだろう
話しながら僕に目を向けた
そして玄関を指して
『早くいけ』
というようなジェスチャーをした
僕は無言で所長に頭を下げ
フラフラしながら玄関を出て
駅の北口に向かった
これから20分かけて歩く
彼に時間潰しを作ってもらった
そういうことだ
身体を動かしているうちに
少しずつ思考から解放されてきた
息の詰まるような苦しさも
だんだん緩んでいくようだった
寮からでは南口に着くので
駅ナカを通り抜けて北口に出た
バスターミナルを見渡していると
携帯が鳴った
「駅を背にして右に歩いて端まで来
てくれ」
唐突に彼の低い声が耳の中で響いた