失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
あまりに唐突で声が出なかった
僕の声が聞こえないので
彼が不思議そうに聞き返した
「もしもし?」
「…もう…着いたの?」
やっと答える
「ターミナルの右側を見てくれ…私
の車がもう見えてるはずだから」
目をこらして右側を探すと
黒の見慣れたセダンが止まっていた
その運転席のドアが開く
彼が僕に向かって手を挙げた
僕は思わず走っていた
「大丈夫か」
僕が肩で息をしながら彼の前に立つ
「……」
僕は無言で首を横に振った
「まあ…乗れ」
彼は目で僕に助手席を示す
車の前を回って助手席に倒れ込んだ
「シートベルト」
「あ…」
急いで引っ張り出す
車がターミナルを滑り出す
「遠くに行くぞ」
彼が小さく呟く
「うん…任せる」
もっと遠くに
そう…世界の果てまで