失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
なにもない未来
「なにが…あったんだ?こんな弱っ
て…」
しばらく黙ったまま
車を走らせていた彼が僕に尋ねた
「お母さんと話した…とか言ってい
たな…復学の件…ではなさそうだ」
そのとおり
いつもながら察しが早い
「ああ…復学の件はどうでもいい」
「やっぱりな…それでは兄さんのこ
とだろう?…違うか?」
また図星
「……」
「やはり…そうか」
黙ったままの僕から正解を見透かす
「私の方に君のお母さんから連絡が
あった…前の夫の件でね」
「え…ほんと?」
前の夫って…あなたの元カレ
少しめまいがする話だ
「遺品がない…と言っていた…君の
兄さんがもらったという遺品がどこ
を探してもない…とね…何をもらっ
たかはわからないという…彼の姉に
聞いてもわからないらしい…君も知
らなかったそうだな」