失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
唇を噛みしめる
知らなかった…なんにも
それがこのどうにもならない気持ち
どうにもならない虚脱感
「その話を聞いて君の嫉妬に火がつ
いていると思った…そうしたら夜中
にメールがきた…ビンゴだろう?」
「……」
僕はまた黙った
「私に構わず言うんだ…君は…君が
思っている以上に自暴自棄になって
いる…だから危ない」
母は僕と話したそのあとすぐに
自宅に帰って彼に電話したらしい
居ても立ってもいられなかったんだ
そう僕は思った
「その…通りだよ…いや…それ以上
かも…しれない」
「それ以上か…」
「僕は…捨てられた…のかもしれな
い…あの書き置きは…本物で…」
泣きたいのに涙が出なかった
「本気で…そう思いたくなった…そ
れなら僕は解放される…この苦しみ
から…ね」
僕は苦笑した
「あなたを待つだけで…あのざまだ
なにもかも色あせて見える…あなた
が…最後の砦…だから1時間すら待
てない…」
そして絶対に言わないはずのことを
言った
「抱いて…欲しいんだ…あなたに」