失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
「そうだ…それでいい」
彼の口元がうっすら笑っていた
「まだ…私に抱かれたいか?…狂気
の火は簡単に燃え尽きたみたいだな
…君をいま落としても絶望…兄さん
を探せば嫉妬…私にはどちらを選ん
でも厳しい選択だな…だがそれは君
も同じだ…いや…違うかな?」
「だめだよ…」
「なにがだ?」
彼は僕を見た
「…今日はあなたに抱かれなくちゃ
僕は…帰れない」
彼はしばらく考えていたが
またフッと苦笑した
「いや…今が一番私は幸せなのかも
知れない」
いつの間にか高速を下りていた
僕たちはホテルに向かった
部屋に入ると互いに服も脱がずに
ベッドで抱き合った
こんなに互いに求めたことは
なかったかも知れない
痛いほどのキス
いつかは消えてしまうかも知れない
僕とあなたとの絆
それでも
互いを支え合ったこの日々を
まるで刻みこむかのように
相手の身体をむさぼりあった