失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



「なにかが明らかになっていく…謎

が増えることもある…その中で君と

私は今のままではいられなくなるだ

ろう…君はまた今まで以上に苦しみ

私も苦悩の中に溺れる…だが…」

彼は目を閉じた

「私が一瞬でも…自分の幸せよりも

誰かの幸せを思った…その奇跡があ

れば…孤独でも…生きていける…」



その時

閉じられた彼の目から

ひとすじ涙が伝った

僕は自分の目を疑った



「どうしたの…?」

彼は流れる涙もぬぐわずに答えた

「私を…泣かせてくれ…」

「どうして…?」

「君のように…泣いていたい」



僕はその日初めて

彼の涙を見た

その涙の意味すら

まだわからないままで






『Lascia ch'io pianga』
 私を泣かせて

Lascia ch'io pianga
mia cruda sorte
過酷な運命に涙し
e che sospiri la liberta.
自由に憧れることをお許しください
Il duolo infranga
私の苦しみに対する
queste ritorte
憐れみだけによって、
de'miei martiri
苦悩がこの鎖を
sol per pieta.
打ち毀してくれますように


『リナルド』アリア  ヘンデル















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