失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
斎田弁天の漆黒の闇に立つ彼の姿が
不意に蘇った
もしかしてあの夜彼は
運命を大いなる何かに
預けに行ったのかも知れない
風の中に立ち
本殿に無言で対峙していた彼の姿
あの時はわからなかったそれは
彼の決意…?
あのゾッとするほどの彼の美しさを
僕は忘れられない
それはすでに彼がなにかを知って
だからこそ…
失踪からもうすぐ一年経つ
止められないドミノ倒しは
もうあの日から始まっているんだ
兄が消えたあの日から
(誰の意志をも超えて
因果の収支が釣り合わせられる)
頭の中に
なにかの声が響いた
幻聴…なのか?
あまりのリアリティに固まったまま
僕はしばらくそこから動けなかった