失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
僕は少しホッとした
「良かった…刑事さんもそう思いま
すよね」
それを聞くと刑事さんはまた笑った
「私は刑事じゃないよ」
「え…?」
一瞬背筋が凍った
刑事じゃ…ない…?
「捜査官ではないよ」
僕は思わず聞き返した
「け…刑事さんじゃ…ないの?」
警察…じゃな…い?
もしかして
こっちが…
「違います…庶務です…つまり事務
方だよ…公安は刑事だけじゃないん
だよ…まあ…こんな仕事あんまりし
ないけどね」
一気に緊張が抜けた
めまいがしそうだった
庶務…さん…でしたか
ああ…もう勘弁して欲しい
「ほら…さっきも言ったけど…公安
の捜査員は面が割れたら終わりだか
らね…私は捜査しないからというこ
とで上司の直々の指令…ごくたまに
あるんですよ」
「そうですか…知りませんでした」
僕はシートにぐったりともたれた
「当たり前だよ…その歳で公安なん
か詳しかったらスパイだ…ああ…そ
れかオタクね」