失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
冷房の効いた車の中で
額と脇の下に汗をかいていた
安堵と不安を何往復したら
自分の状況が見えてくるんだろう
知らない人に身を委ねている
その不安定感がたまらない
車は高速にも乗らず
下道を走り続けていた
ここがどこだかわからない
降りだした雨はだんだんと強くなり
ワイパーが早さを増していた
今ごろ県警は僕を追っているのか
所長はごまかしきれたんだろうか
彼はなぜ僕に連絡してくれないのか
一体僕は誰からどんな危険に
さらされているのか…
公安の説明が切れて妄想が次々わく
説明聞いても逃避にならなかった…
ここでパニック発作でも起こして
気を失うほうがマシかも
「あの…どこに…行くんですか?」
答えてくれそうにない問いだが
なにか話さずにはいられなかった
「そろそろ着くよ」
「は?…そうなんですか?」
答えてくれたことに意表をつかれて
声が変な風に裏返ってしまった