失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



「あれがこんなに必死なのを初めて

見る…その原因は君らしい」

その人はあまり表情を変えなかった

「長い付き合いだ…彼の母親も知っ

ている…最低の母親だったがな」



ドキッとした

無意識に僕は感じていた

この人と彼の関係について



「母親から…愛されていなかったと

彼…言ってました」

「ああ…あれは…あの女の道具みた

いなもんだった…金儲けのな…しか

もあの女ギツネは第一級の犯罪者だ

った」

男性の眼差しが翳った

とてもイヤな話だ

僕も聞きたくないような彼の

実の母親から愛されていない過去

胸が悪くなる

兄の過去に重なって倍増していく



「そして君の兄さんの父親はあの女

とぐるだった…知っていたかな?」



それは唐突に手渡された

蛇の死体みたいに…



突然すべての遠近感が狂い始めた

遠いものが近く

近いものが遠くに感じた

めまいを覚えるような

認識を殴られた感覚



「うそ……なんで…?」

僕はそれしか返せなかった





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