失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
「嘘じゃない…あの男は彼女の犯罪
システムの一環を担っていた…犯罪
が犯罪として成立しなくなるような
法をすり抜けるシステムを様々な形
で仕掛けて保身を図っていたからな
…ズル賢いが大した女だった…あの
新聞記者はそのいくつもある逃げ道
の一つだったと言える」
唖然とした顔しか出来ない僕に
男性は構わず話し続けた
「あの男が特ダネを掴めたのはあの
女のおかげだ…あの女は裏の世界の
情報網のある部分を握っていた…し
かも財界や霞ヶ関…永田町の香ばし
いヤツをな」
母があのとき言っていた話が
こんな時につながった
しかも最悪な情報として
「あの女は…ある財界御用達の高級
クラブの女経営者の私生児だった
父親が財界の大物でその女経営者は
愛人だった…その中で育ったあの女
は"情報とは財産である"ということ
を人生で早々と知った…そして自分
の育ちが表の世界では一生日陰者の
ままだということもな」
彼はソファーに深くもたれた
「日陰者同士…あの新聞記者もな」
男性は物憂げに呟いた